K・Kニュース vol.13(2008年2月号)


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年少者の禁煙

  小田嶋 博

国立病院機構福岡病院 統括診療部長

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はじめに

 喫煙が呼吸器疾患に与える影響は大きい。小児期の呼吸器疾患の代表である気管支喘息(以下、喘息と略す)においても重要な危険因子・増悪因子である。そして、除去の可能性が最も高い因子であるにもかかわらず、除去が進まない因子の一つでもある。
小児では、初め受動喫煙として始まり、本人には責任がないにもかかわらず、徐々に健康障害がもたらされる。また、受動喫煙される副流煙は主流煙よりも有害物質の量が多い。

 ここでは若年者の喫煙の実態とその禁煙について述べてみたい。

1.小児を取り巻く喫煙の実態

(1)喫煙の実態

 福岡県某市での我々の調査では生後4ヶ月児のいる家族での喫煙率はここ3年間で65.8%であり減少傾向はない。また家族の喫煙率は父親76.2%、祖父14.3%、母親12.8%の順であった。

 環境省の3歳児対象全国的サーベイランスによれば平成8年以降、家庭の喫煙率は約65%から徐々に減少し、最近は約65%が喫煙者のいない家庭と逆転している。しかし、減少したのは母親以外(主に父親)の喫煙であり、母親の喫煙率は10%強とほとんど変わっていない(図1)。この調査では母親が喫煙している家庭では喘息の有症率が高い。

 我々が福岡市内で行っている小学校1年生の疫学調査では家族の喫煙率は51.7%。しかし、小学生での調査では喫煙率と喘息の有症率の間には関連がなかった。

 図2に厚生労働省による低年齢での喫煙率を示す。平成8年から12年にくらべ平成16年では減少に転じているが、なお多くの青少年が喫煙している。

 多くの高校では、喫煙が見つかれば退学という規則があり、正確な数字を得ることは困難である。しかし、我々の知り得たある高校1年生では、344人中25%と上記の調査と全く同じ数字を示し、彼らは好奇心や、友人・先輩・親に勧められて喫煙をし、その内84%が中学から、14%は小学校で初めてタバコを吸っている。そして現在その30%は毎日、25%は時々吸っていた。小・中学校で喫煙すると、高校1年生の時点ではその2人に1人がタバコを吸い、3人に1人は毎日吸うという結果であった。

(2)タバコの影響

 思春期(15〜25歳)の喘息患者に対する我々の調査では周囲の人がタバコを吸うと症状が悪くなる9%、少し悪くなる53%、変わらない38%であり62%の者が何らかの症状が誘発される。思春期喘息患者では過去に喫煙していたものが13%、現在喫煙しているものが23%であった。また、このような喫煙者が妊娠した場合、吸っていた14.8%、節煙した25.9%、禁煙は59.3%に過ぎなかった。例え、自らに喘息があっても禁煙は難しい。

 受動喫煙の小児への影響に関する報告は多いが、母親の喫煙と喘息の関連に関しては妊娠中、出産後の影響は表1のようにまとめられる。気道の脆弱性、易感染性、過敏性などの影響が報告されている。気道過敏性の獲得、増加については素因にかかわらず認められる。また、換気機能の低下をもたらす。薬剤の有効性も低下する。

 薬剤の有効性に関しては、喫煙に関連する背景因子の関与、例えば喘息の教育が行き届かない、また、家庭内ストレスが高く、鬱傾向にあるとの報告もありこれらの点を総合的に考える必要がある。

(3)親子の意識の問題

 当院小児科での調査では、65.6%の家庭で喫煙者が存在した。親子とともに約半数のものが発作ないしは咳などの症状を誘発することを認めている。しかし、実際の喫煙時には、親の85.4%が配慮していると答えるのに対して、子供は61%しか配慮されているとは思っていなかった。具体的配慮内容では、親は「子供のいるときは吸わない」「発作を起こしそうなときは吸わない」と思っているのに対して、子供は30%しかそうされていると思っていない。また、実際の喫煙時の子供の反応については子供の否定的、拒否的反応が2〜3割の子供にみられる。しかし、「いやな顔をする」という答えを子供では23.8%なのに対し、親は41.5%と差が認められる。また、小児は受動喫煙によって約半数のものが症状を誘発しているのにもかかわらず、親の配慮は約20〜30%であった。子供は半ばあきらめているが親はあまりそれに気づいていなかった。

(4)習慣性と依存性について

 初回喫煙年齢は、半分以上が中学、高校時代である。若年喫煙開始者は禁煙がしにくい。そして依存度の高い者ほど低年齢から喫い始め、また、20歳未満に習慣的喫煙が始まっている。喫煙が喘息に害があることは、喫煙者、非喫煙者とも知っているが単に知っていても止められない。禁煙指導上、健康の害を訴えるだけでは有効でないことになる。

2.禁煙に関して

 喫煙経験があり今は禁煙している喘息児の親に禁煙の契機について調査すると、「タバコの害を知って」が56%、「体調を壊して」が24%、「子供が発作を起こす」「子供が喘息と診断されて」はそれぞれ、8%、12%であった。厚生労働省の調査でも、自分の体調不良が大きな比率を占めており、禁煙指導上重要である。

 受動喫煙の最も効果的な対策は禁煙である。親・家族に指導をする場合には、子供に対する害のみではなく、親自身に対する害についての説明が有効で、肺癌をはじめとする癌や冠動脈疾患についても説明することがよい。また禁煙への協力者の存在が成功率に大きく影響する。年齢、性別、社会、経済的背景に合わせた指導が必要である。両親の喫煙状況と中学生の喫煙率は関連することから、両親の禁煙が必要である。

 最も関係のある女性の喫煙に関しては、特に妊娠前後が1つの重要な禁煙の機会である。妊娠前に喫煙習慣のある女性の41%は妊娠中に禁煙するが、その39%は出産後、母乳を中止するのを契機として再喫煙する。この時期に、たとえ母乳を与えなくても受動喫煙として害があることを強調しなくてはならない。

 受動喫煙に関しての両親への教育は、喘息児の診察に付随して行う方法では有効性が低く、独立のプログラムで行うことが必要であるとされるが実際臨床では困難なことが多い。大学生での喫煙の報告では、喘息発作との関係は明らかではないが、喘鳴などの気道症状に関連がみられるが喘息発作と関連がなく普及は困難である。厚生労働省の報告でも禁煙した理由の中で「医師や看護師の勧め」は低率である。

 また学校教師の中に喫煙するものかなり存在する。生徒の前では、絶対に吸っている姿をみせてはならない。

3.まとめ:年少者の禁煙教育の意義(表2)

 小児での禁煙教育は大切である。それは、初めての喫煙が小学生、中学生と低年齢であること、そして、このような低年齢からの喫煙者ほど、習慣性・依存性を獲得しやすく、禁煙が実行し難いからである。そして子供の喫煙習慣は、親の喫煙習慣と関連が強く、特に若年女性の喫煙率が高い我が国では、やがて母親の喫煙の形になり、悪循環を繰り返す危険性が高いからである。小児での禁煙教育は習慣性・依存性となった成人を減らせるという大きな利点がある。また、禁煙の成功率が上昇し、その結果呼吸障害患者を減少させ得る可能性がある。また、若年女性の喫煙が減少すれば、乳幼児などの肺障害が減少する可能性に繋がる。

 実際には若年女性を含めて、禁煙はなかなか進んでいない。小児の初めての喫煙機会が「親を含めた周りのものにすすめられて」であることから、子供をとりまく者、特に、母親、教師の禁煙が重要である。また、喫煙をすすめられた時に、具体的にどう断るかをロールプレイを含めて教えておくことも必要である。

 喫煙が喫煙者自身の体に悪いという事実の普及以外に、医療機関を訪れた際に、喫煙の害を強調することもや、心理的因子の関連も考慮する必要がある。


 

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