K・Kニュース vol.14(2009年2月号)
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〜 前日本アレルギー協会九州支部長 石川 哮先生を偲んで 〜 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教授 黒野 祐一
昨年8月に石川 哮先生の訃報を知らされたとき、全く信じられない思いがしました。その半年前の2月に大阪で開催された日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会のランチョンセミナーでは、少し痩せられはしたものの、元気にご司会をなされ、すっかり快復されたものと思っていました。さらには、その後直ちに福岡へ移動し、九州アレルギー懇話会に参加され、その後の西間三馨先生のご自宅で開かれた慰労会にも出席され、美味しそうに鍋をつつき、お酒を召し上がっているお姿を拝見して、その思いを確信していました。
しかし、11月に先生のご霊前に御参りをさせていただいたときに奥様からお聞きすると、そのときにはかなり無理をされていたとのことで、もしかすると、先生は我々に何かを伝えたくて、病む体に鞭打ち遠くまで足を伸ばされたのかもしれません。そういえば、その2月に福岡でお会いしたときに、先生はいろいろとご自分のことをお話され、はじめは、とくに最近は物忘れがひどくなったが、そのくせ昔のことは良く覚えているというような、ごくありふれた世間話でした。
ところが、突然、今でも「蝦蟇の膏の香具師口上」を覚えているといわれ、「さてさてお立ち合い。手前ここに取りいだしたるは、軍中膏は四六の蝦蟇・・」と淀みなく、リズミカルに口上を披露されました。同席した者は皆唖然とし、しばし静寂を置いて拍手喝采。先生のたいそうご満悦な笑顔が忘れられません。
その他にも先生は様々なご趣味をお持ちでした。学生時代にはアルバイトで筆彫刻をしていたとある会合でお聞きしていましたが、これが如何なるものか私は知る由もなく、購入者の名前でも彫るのであろうと安易に考えていました。
ところが、KKニュースに掲載されたその作品を拝見して驚きました。一本の細い筆軸に、般若心経全文262文字の一文字一文字が丁寧に、真っ直ぐに、正確な間隔をおいて彫られており、まさに芸術品でした。これを趣味というのでは本職がかわいそうに思えるほどの作品に、先生の計り知れない多彩な才能を知らされるともに、何かしら人間としての大きさ、寛大さを覚えました。さらに、熊本大学をご退官された後、能面彫りを始められ、その作品もKKニュースに掲載されています。そこには筆彫刻で培われた繊細な技術が生かされ、見る角度によって喜怒哀楽が変化する能面の表情が見事に彫られています。
能面のような顔というと、端正な作りであってもどこか無表情な様を意味しますが、石川先生の作品には、見る者の心理によって変化する奥深い芸術性が感じられます。能楽では役者の立ち振る舞いによって能面の表情が変化することは知っていましたが、能面自体の表情がこれほどまでに変化することは私にとって大きな驚きでした。もしかすると、石川先生の先輩でもあり、能楽に造詣の深い多田富雄先生に少なからず学ばれたのかもしれません。
どのような心を持ってこの能面を掘り、そしてどのような魂を入れようとしていたのか、ぜひとも先生におたずねしようと思っていましたが、その機会を逸したことが今さらながらに悔やまれます。研修医時代のある学会の口演で、「アレルギー性鼻炎」という今では一般的な用語を使ったところ、「発熱もなく白血球増加もない鼻アレルギーをどのような根拠で炎症というのか」と先生に質問されたことがあります。そのとき以来、とても手厳しい頑固な教授と思っていた石川先生ですが、直接いろいろとお話しをさせていただくうちに、先生の学問に対する情熱と感性の豊かさを知りました。
まだまだ、先生に学ぶべきことがたくさんあったのに、それが叶わないことが残念でたまりません。しかし、先生が残された数々の思い出を大切にして、これからの自分自身の目標そして心の支えにしたいと思っています。先生に心より感謝申し上げるとともに、ご冥福をお祈りいたします。 合掌
書 籍 紹 介
鼻アレルギー診療ガイドライン
− 通年性鼻炎と花粉症 −
2009年度(改訂第6版)鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会
(株)ライフ・サイエンス
2008年11月28日発行
定価 3800円+消費税21世紀の吸入療法 高橋 敬治 監修
薬物吸入療法研究会 編
仙台気道研究所
2008年6月16日発行定価 4200円 (本体価格4000円)
(財)日本アレルギー協会の入会案内
(財)日本アレルギー協会は厚生省所管の財団法人として昭和42年に発足。目的は国民の30%を越える人達が何らかのアレルギー症状を持つという国民病とも云われる状況に対し、総合的に調査、研究、啓発、広報などによって国民の保健と福祉に寄与することです。学術団体日本アレルギー学会と協力し、医療関係者、患者、行政、社会の多くの人達と手を組んでアレルギー克服に向けて努力しております。数年前より個人会員も募るようになりました。当協会の趣旨に賛同され、入会いただけますようお願い致します。
正会員 一般会員 対 象 医師、看護師その他の専門職、医療従事者
患者および家族などの一般の方々
会 費
(4月〜1年間)一口2,500円
(一口以上)一口1,500円
(一口以上)特 典 機関誌
「info Allergy」送付機関誌
「アレルギートゥデイ」送付
■申し込みと会費納入■: 振込用紙に必要事項を記載し、会費を納入下さい。
■ お問合せ先 (振込用紙請求先) ■
〒102-0074 東京都千代田区九段南4-5-11 富士ビル4階
財団法人 日本アレルギー協会
TEL 03-3222-3437 FAX 03-3222-3438
支 部 だ よ り
日本アレルギー協会九州支部が発刊してきたこのKKニュースの生みの親であり、編集長の石川 哮先生が平成20年8月19日に逝去されたことは皆様ご存知の通りです。これは石川先生の指導の下、2001年11月から九州地区アレルギー研究に関する成果や行事、先生方のつぶやき、趣味の紹介など盛りだくさんな記事を製薬会社の広告とともに皆様にお伝えする情報紙で年2回発行し、今回7年目になります。
現在の社会事情で、経済的に困難となり今回6ヶ月以上遅れてしまいました事を深くお詫び申し上げます。この号は九州大学心療内科教授久保千春先生の巻頭言をはじめとして市瀬先生の黄砂の基礎的研究、漢人先生の乳児喘息の病態に関する研究結果が紹介されています。また黒野先生より石川 哮先生への追悼の言葉を頂き、学会報告や30年間続いたKBCラジオのアレルギー談話室記念講演開催などの記事からなっています。
新しい趣向では新薬紹介のコーナーを設け製薬会社の方に腕をふるって薬の紹介をして頂きました。今後は少しずつ方針が変わる可能性がありますが、私ども編集部は石川先生のご意思を次いで何らかの形で続けて行きたいと思っております。少し寂しい話の中嬉しいことがありました。西間支部長が、この度、第21回人事院総裁賞を授与されました。これは長年にわたる不断の努力と国民生活の向上への顕著な功績などにより公務の信頼を高めるために寄与したと認められる公務員または職域を顕彰するもので昭和63年以降、年1回あるとのことです。
小児喘息、重症心身障害児(者)医療における医療・教育の充実に貢献したことが高く評価されたからです。天皇皇后両陛下のご接見を賜り、急にやんごとない方になられた次第です。今後も多くの仕事をこなして九州・日本のアレルギーに貢献されると思います。(国立病院機構福岡病院 アレルギー科 岸川禮子)
Kyushu Kyohkai News
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2009年2月1日発行発行:(財)日本アレルギー協会九州支部
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