K・Kニュース vol.2(2002年6月号)
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九州地区年間花粉症発症調査 ◆ 平成13年1月〜12月 ◆
日本アレルギー協会九州支部長 石川 哮
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九州における年間飛散花粉のうち主要なアレルゲンとなるスギ、初夏のイネ科、秋のキク科、カナムグラ、イラクサ等の雑草について、平成13年(2001年)1月から一年間を、3月、5月、10月の3点に分け、空中飛散花粉測定を行い、それぞれの時期に花粉症/鼻アレルギー症状を訴えて来院した患者について調査した。
花粉測定と受診患者調査に協力された方々は表1に示した。花粉測定は、福岡県5、長崎県1、熊本県2、宮崎県2、鹿児島県2、の計12施設で行われた。患者受診調査は、福岡県5、長崎県3、熊本県2、宮崎県1、鹿児島県4、の計15施設で行われた。
スギ・ヒノキ花粉飛散は例年に比べ非常に多く、スギは2月初旬から4月初旬にかけての飛散で多い所で3,500/゙/season(以下この単位で示す)を越え、過去15年間で2番目の飛散数を示した。又、ヒノキ花粉は3月下旬から4月中旬まで飛散し、多い所で5,000を越え、過去最高で、1施設を除いてスギ花粉より2〜3倍多く捕集された。
イネ科花粉は3月下旬から漸増し、5月にピークを示した。捕集された数は地域によって差が大きかったが、宮崎の425と極めて多く、長崎は15と少なかった。福岡は多い所で82と中間的数であった。
雑草花粉は、8月下旬から10月中旬、下旬にかけて飛び、多く捕集されたのは、ヨモギ属(8月下旬と9月中旬にピーク)が長崎で最も多く飛び、ブタクサ属(10月初旬にピーク)は宮崎と熊本、イラクサ科(9月中旬にピーク)は長崎、カナムグラ(9月初旬にピーク)は宮崎に多く飛散した。
花粉症/鼻アレルギー患者受診状況と飛散花粉に対する抗体陽性について表2に示す。
ク3月の第2週あるいは第3週の一週間の調査:九州全域スギ花粉とヒノキ花粉が重複して多数飛散し、この時期に相当して、多くの患者受診がみられた。主としてRASTによる抗原特異的 IgE 抗体検査の施行できた1,310例の内約55%がスギ花粉に対し陽性、17%がヒノキ花粉に対し陽性を示した。ダニ陽性症例はスギを重複するものとスギ陰性例が含まれるが、受診者の内29%というのは平均ダニ感作症例頻度より低く、この時期にはスギ/ヒノキ花粉症の受診率が明かに高いことを示唆している。年齢は16才以上に圧倒的高頻度であった。一般に血清 IgE 値はそれ程高くないと考えられている花粉症例で、300IU/ml以上の高値を示した例が検査施行662例に対し23%であったのは銘記すべきである。
ケ5月の第2週あるいは第3週の一週間の調査:イネ科花粉の飛散ピークに一致しているが、スギ/ヒノキ花粉症に比較すると少ない受診数であった。しかし、抗体検査の施行できた178例中42%がカモガヤ、10%がオオアワガエリに陽性で、スギ/ヒノキシーズンと同様これらの花粉症患者が主として受診していることを示している。しかし、ダニ陽性が70%で、花粉と重複あるいはダニ陽性/花粉陰性例が多かったといえる。300IU/ml以上の血清 IgE 値を持つ者が28%と、スギシーズンと凡そ同じ頻度でみられた。
コ10月の第2週あるいは第3週の一週間の調査:今回の症例受診調査はブタクサ花粉飛散ピーク時期に相当し、その他のヨモギ、カナムグラは飛散ピークを過ぎてしまい、時期を逸したことになる。しかも、ブタクサは熊本、宮崎で飛散が比較的多いにもかかわらず、この2県の調査結果が登録されていなかった。従って、抗体検査データのある160例に対してヨモギは4%、カナムグラは2%と花粉飛散数のピークを逸したことが反映されている。ブタクサは熊本、宮崎を除いても10%と飛散時期を反映した結果が得られた。ダニは5月の調査結果と同様71%であった。血清IgE値も3月、5月と同様に300IU/ml以上が20%であった。
九州地区の研究プロトコールで設定した3期においてそれぞれの飛散花粉抗原に対する IgE 抗体を保持する者が高い受診率を示したと判断できる価値ある試験的観察結果であった。このデータを踏まえて、種々の花粉飛散時期に焦点を合わせた調査を徹底して行う本試験に入ることが望まれる。
日本アレルギー協会九州支部の調査研究に絶大な御協力を頂いた諸氏に深謝致します。
表1 . 研究協力者(五十音順)
浅井貞宏、 五十川修司、 井上秀一郎、 岩下睦郎、
上野員義、内薗明裕、 嬉野元喜、 小山田正孝、
菊地俊彦、 岸川禮子* 、黒野祐一、 河野浩万、
児塔栄子、 相良ゆかり、 柴田浩一、島 哲也、
下田照文、宗 信夫、徳永 修、栃木隆男、福島泰裕、
松田健一郎、 増山敬祐、 宮副孝子、 宮之原郁代、
山田篤伸、吉見龍一郎 *:研究総括者
表2 . 花粉症/鼻アレルギー患者受診状況と
飛散花粉に対する抗体検査結果
2001年3月(第2或いは第3週の一週間)
福岡 長崎 熊本 宮崎 鹿児島 総数 頻度(%) 施設数 5
3
2
1
4
15
患者総数 640
141
50
28
524
1383
男 273
54
23
11
219
580
41.9
女 367
77
27
17
305
793
58.1
<15才 39
13
0
5
250
307
22.2
≧16才 601
128
50
23
274
1076
77.8
IgE抗体陽性
スギ 444
68
23
22
163
720
55*
ヒノキ 159
25
16
8
10
218
17*
ダニ 158
51
9
13
156
387
29*
血清IgE
(≧300IU/ml)55
15
15
9
60
154
23*
2001年5月(第2或いは第3週の一週間)
福岡 長崎 熊本 宮崎 鹿児島 総数 頻度(%) 施設数 5
32
2
1
4
14
患者総数 84
41
19
4
105
253
男 34
11
10
2
57
114
45.1
女 50
30
9
2
48
139
54.9
<15才 14
4
2
1
51
72
28.5
≧16才 70
37
17
3
54
181
71.5
IgE抗体陽性
カモガヤ 35
9
8
3
20
75
42*
オオアワガエリ 5
2
5
4
2
18
10*
ダニ 53
12
6
3
51
125
70*
血清IgE
(≧300IU/ml)7
6
2
2
23
40
28*
2001年10月(第2或いは第3週の一週間)
福岡 長崎 熊本 宮崎 鹿児島 総数 頻度(%) 施設数 5
2
0**
0**
3
10
患者総数 52
34
397
483
男 24
16
198
238
49.3
女 28
18
199
245
50.7
<15才 18
2
237
257
53.2
≧16才 34
32
160
226
46.8
IgE抗体陽性
ヨモギ 5
1
1
7
4*
カナムグラ 1
1
1
3
2*
ブタクサ 0
1
15
16
10*
ダニ 37
18
58
113
71*
血清IgE
(≧300IU/ml)4
6
14
24
20*
*:陽性例/検査データのある症例×100
**:調査データなし
2002年九州のスギ・ヒノキ科花粉飛散状況と
福岡県内花粉症患者受診状況
国立療養所南福岡病院アレルギー科 岸 川 禮 子
日本アレルギー協会九州支部 児 塔 栄 子
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2002年2月1日〜4月30日まで福岡県医師会を中心とした九州各県医師会(沖縄県を除く)と医療機関、国公立医療機関および日本アレルギー協会九州支部の協力・連携でスギ・ヒノキ科花粉を重力法で測定した。2月15日〜4月15日まで日曜、祝日を除く毎日福岡県内花粉情報、九州各県花粉飛散速報を行った。花粉症患者状況は県内耳鼻科、眼科医院より受診数・コメント等の情報を提供して頂き、気象条件は日本気象協会福岡本部から予報をいただいて作成した。
スギ花粉の飛散開始日は、例年より1週間から10日、前年より約2週間早く、2月1日から6日の間に九州全域で開始した。飛散ピークも2月中旬から3月上旬までと例年の2月下旬からでは早めにピークを迎えた。花粉飛散時期に晴天が多く、気温も高めに推移した影響か、スギ花粉捕集総数は802〜7,481個/゙と地域差はあったが例年平均の約1.2〜1.8倍(前年の0.7〜1.5倍)であった。熊本県と鹿児島県の一部では昨年の約1.5倍捕集された。ヒノキ科花粉も飛散開始は3月10日〜18日で例年より約10日〜2週間、前年より4〜12日早く飛散した。ピークは3月中〜下旬にあり、4月8日以降終了期に入った。ヒノキ科花粉は九州全域で80〜1800個/゙捕集され、前年スギ花粉を上回って大量に捕集された福岡、佐賀、長崎、大分では前年の約0.2〜0.5倍(例年約0.7〜1.5倍)、宮崎、鹿児島では前年より約1.5倍(例年1.3〜1.5倍)増加した。2月1日〜4月15日までの花粉症患者受診数は、耳鼻科約8,300名/9件(前年10件)、眼科約700名/4件で前年同時期の耳鼻科約0.9倍、眼科約1.1倍でほぼ同数の受診数であった。
スギ花粉飛散初期2月第2・3週からすでに耳鼻科では約500名、ピーク時には約1,300名が3週連続して受診し、中等症が多く、未治療者は重症化したとのコメントを頂き、4月に入りヒノキ科花粉飛散減少に伴い受診数も減少した。(図1)
■リアルタイムモニター花粉飛散状況報告
国立療養所南福岡病院臨床研究部、日本アレルギー協会九州支部、福岡県医師会、東邦大学、NPO花粉情報協会、大和製作所、NTTの協力により、2002年2月から試験的に国立療養所南福岡病院屋上にリアルタイム花粉自動測定機を設置し、花粉飛散状況を検討た。1時間毎に24時間中リアルタイムで花粉飛散状を有効に活用できた。時間毎の花粉数を日別に集計し、Durham型による花粉数と比較した。スギ花粉の飛散変動とは比較的良く一致しているが、3月下旬頃のヒノキ科の飛散時期には不一致が見られ他の花粉が多く飛び始めた時期と黄砂によるものなのか今後の検討課題である。(図2)
図1. 2002年スギ・ヒノキ科花粉飛散状況
(福岡県内16施設平均週毎花粉数)
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図2 . リアルタイムモニターによる花粉飛散状況
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