K・Kニュース vol.7(2004年12月号)


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関節リウマチの治療は将に転換期を迎えています
〜超早期診断及び治療により寛解・治癒を目指す〜

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
病態解析・制御学講座 (第一内科) 教授

江口 勝美

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1) これまでの関節リウマチの薬物療法について

 まず、関節リウマチ(RA)は、アメリカリウマチ学会(ACR)の2002年度版のガイドラインに従って治療されています(図1)。
関節炎の患者を診察した場合、RA を早期に診断し、疾患活動性と機能障害を把握し、臨床経過、特に関節破壊を予知します。RA と診断したら、患者教育、NSAIDs の投与、局所あるいは低用量経口ステロイド投与、理学療法/作業療法を行い、3ヶ月以内に抗リウマチ薬を開始します。

 抗リウマチ薬として、現在、保険収載され、良く使用されている薬剤を取り挙げてみます。
免疫調整薬として、
@サラゾスルファピリジン、 Aブシラミン、 B金チオリンゴ酸ナトリウム が、免疫抑制薬として、
@メトトレキサート、 Aレフルノミド が、生物学的製剤として、
@キメラ型抗 TNFα抗体のインフリキシマブ が、その他として、
@白血球除去療法(LCAP) が挙げられます。
さらに、2005年に免疫抑制薬のタクロリムスとヒト型可溶性 TNF レセプター(p75)Fc 融合蛋白のエタネルセプトが保険収載される予定です。

 RA と診断し、通常抗リウマチ薬の中で、第一群選択薬として使用されている薬剤は、免疫調整薬のサラゾスルファピリジン、ブシラミン、金チオリンゴ酸ナトリウムです。これらの薬剤で3ヶ月治療しても効果不充分で、疾患活動性が持続する場合は、メトトレキサートが使用されます。
メトトレキサートは他の抗リウマチ薬と比較して投与継続率が最も優れ、関節破壊の進行も抑制できることから、抗リウマチ薬の中心となり、世界中で汎用されています。2003年9月に日本でもピリミジン系合成酵素阻害薬のレフルノミドが上市されました。現在、その副作用として、間質性肺炎が話題になっていますが、メトトレキサートと同じく第二群選択薬として捉えることができるでしょう。
これらの薬剤で効果が不充分で活動性が持続するならば、生物学的製剤のインフリキシマブやエタネルセプトが併用あるいは単独で使用されます。これらの生物学的製剤は第三群選択薬と呼べるでしょう。

 

2) RA 治療は変革の時を迎えています

 これまで、ACR 2002年度版 RA 治療ガイドラインに基づいてお話をしてきました。しかし、RA 治療はインフリキシマブやエタネルセプトが新規に導入され、将に変革の時を迎えています。これらの生物学的製剤は関節炎を速効性に抑え、日常生活動作障害を改善し、関節破壊の進行を阻止あるいは修復することができます。
早期関節リウマチとは、一般に関節炎を発症し、3年以内で RA と診断がついた関節リウマチをさします。この早期関節リウマチに生物学的製剤を使用すると、関節破壊の進行を抑えるだけでなく、寛解に導くことができるということが分かってきました。
この理由から、RA の治療目標は従来のレベルと比較して、より高いレベルの「寛解を目指す」に移ってきています。すなわち、関節痛もなく、健康なヒトと同じように、日常生活をなに不自由なく送ることを目指しています。

 生物学的製剤は RA に対して優れた効果を示しますが、その一方、高価であること、結核の再燃をはじめ感染症に罹患しやすいなど、時に重篤な副作用を来たす欠点を持っています。
この理由から、患者さま誰でも投与できる治療法ではありません。これらの点を考慮して、関節炎を主訴として来院した患者さまの早期診断と臨床経過の予測からみたテーラーメイド治療が期待されます。

 

3) RAを(超)早期に診断することが可能になってきています

 今日まで、RA は関節の症状や所見がある程度揃ってから診断を下してきました(表1)。具体的には、1987年アメリカリウマチ学会改訂分類基準(ACR 1987年分類基準)にある7項目の症状・所見のうち4項目が陽性の場合に、RA と診断されます。
この診断基準は感度・特異度において優れていますが、RA をより早期に診断することには適していません。

 最近、RA の患者さまの血清中にリウマトイド因子と比較して、より特異的に検出される抗環状シトルリン化ペプチド抗体(抗 CCP 抗体)が新しく見い出されました。この抗体は関節炎発症早期の関節リウマチ患者さまの50〜70%に検出されます。しかも、本抗体を持って関節炎を発症した患者さまのほとんどが RA へ移行します。
また、画像診断技術もかなり進歩し、磁気共鳴画像装置(MRI)で撮影した画像により、冒された関節の状態を詳細に観察することができるようになりました。MRI 検査は通常の骨X線検査より骨浸蝕像を数年早く検出できます。
私たちは厚生労働省の早期リウマチ研究班の先生方と協力して、@抗 CCP 抗体あるいはリウマトイド因子(2点)、AMRI 画像による対称性両手・指の滑膜炎(1点)、BMRI 画像による骨浸蝕像 (2点)、総計3点以上を満たすと(超)早期関節リウマチとする診断基準を作成しました。この診断基準は関節の痛みを自覚した患者さまを、より早期に正確に RA と診断することができます。

 

4) RAの臨床経過、特に関節破壊の予知から見たテーラーメイド治療

 RA の臨床経過は関節炎を発症し、急速に進行するものから一過性で治ってしまうものまで種々様々です。関節炎を発症して間もない患者さまで、関節破壊を予知できる因子としては以下のものが挙げられます(表2)。
自己抗体では抗 CCP 抗体やリウマトイド因子、血清検査では MMP-3値や CRP 値、骨X線検査での骨びらん像、両手 MRI 画像検査での滑膜炎の活動性(E-rate 値)、骨髄浮腫や骨浸蝕像、遺伝子検査での HLA-DRB1*SE の有無などです。これらの検査結果を組み合わせて、臨床経過、特に関節破壊への進行を予知できるようになってきています。
関節炎が持続し、関節破壊への進行が予知される患者さまには発症早期からメトトレキサート/レフルノミドを投与し、それでも効果不充分で関節破壊の進行が早いと診断された患者さまには生物学的製剤が投与されるでしょう。
一方、自然寛解あるいは関節炎が持続するも関節破壊への進行の可能性が低い患者さまには、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、金チオリンゴ酸ナトリウムなどの従来の抗リウマチ薬が選択されます。

 最後に、「早期診断と関節破壊への進行予知からみた RA 治療」をまとめさせていただきます。
RA 治療は将に転換期を迎えています。今日まで、RA 治療はサラゾスルファピリジン、ブシラミン、金チオリンゴ酸ナトリウムの通常の抗リウマチ薬から開始し、効果が不充分であれば次のメトトレキサート/レフルノミドへ、最後に生物学的製剤を投与するという従来の治療ガイドラインから、超早期から積極的にテーラーメイド治療を行い、「寛解ひいては治癒を目指す」に変わってきています。

 

5) 「早期関節炎クリニック」の開設が望まれる

 ヨーロッパでは関節炎を発症して間もない患者さまをホームドクターからリウマチ専門外来「早期関節炎クリニック」に紹介してもらい、RA を早期あるいは超早期に診断を下し、その臨床経過、特に関節破壊の進行を予知し、治療方針を決定するプロセスを構築し、大きな成果を挙げてきています(図1)。
関節炎が発症し、関節破壊が起こるまでの期間(unique window of opportunity)に治療を開始し、関接破壊を阻止し、寛解へ導くという考え方です。

 今、生物学的製剤をはじめ、多くの抗リウマチ薬が導入されてきています。私たちはこれらの薬剤について利点と欠点を充分に理解し、発症早期から上手に使用していくことが大切で、患者さまの将来はこのことにかかっているといっても過言ではありません。さらに、超早期から抗リウマチ薬で治療すると、寛解がえられやすいことから、日本でも「早期関節炎クリニック」の開設が望まれます。

 


 

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