K・Kニュース vol.10(2006年6月号)
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ロイコトリエン産生系酵素・受容体発現の制御
佐賀大学医学部 小児科助手 在津 正文
--------------------------ロイコトリエン(LTs)、プロスタグランジン(PGs)、トロンボキサン(TX)などのアラキドン酸代謝産物は重要な生理活性物質である。なかでもLTは気管支喘息と深く関わっている。
LT産生系の酵素群の解析がすすんでおり、そのほとんどがなんらかの刺激により誘導されうる酵素である(図1)。
cPLA2はLPSを始めとするさまざまな炎症性物質で誘導されることが報告され、IL-13でも増強する。5LOもGM-CSFやIL-3などにより、誘導される。
図1 アラキドン酸代謝経路
アラキドン酸代謝系の酵素は種々のサイトカインによる制御が存在している。最近、我々はウイルス気道感染の際の重要なサイトカインであるIL-18が好塩基球の5LOを誘導することを発見した。FLAPは、GM-CSFやTh2サイトカインであるIL-4、IL-5による増強が報告されている。LTC4 synthaseやLTA4 hydrolaseもIL-4、IL-13で誘導されることが我々の報告を含めて示されている。
PG系において、COX-2はLPSをはじめとする様々な炎症性物質、特にTh1タイプのサイトカインでの誘導が報告され、PGs・TX産生の重要なkey enzymeである。ところがIL-4、IL-10、IL-13などのいわゆるTh2タイプのサイトカインでは抑制される。
Th2タイプのサイトカイン優位の状況になると、LT産生系の酵素発現が増強しLT産生が増強すると共に、PGs系産生酵素発現は抑制され、LT優位の状況になると推測される。近年、LT受容体についての研究も進みつつある。cysLT1はIL-4、IL-5、IL-13などのサイトカインによる発現増強が我々の研究を含め報告されている。Th2タイプのサイトカインによるLTレセプター発現の増強がアレルギー性炎症の重要なメカニズムになっていることが推測される。
サイトカインによるLTの制御(1.生成系の酵素発現の制御、2.受容体発現の制御)が存在し、Th2サイトカインが重要であると考えられる。Th2サイトカイン優位の状況になると、LT産生酵素およびLT受容体の発現が増強し、LTの作用が増強する可能性がある。
また、近年ウイルス感染と喘息発症の関連が研究されているが、特定のウイルス感染に関連した因子も重要なLT制御因子である可能性がある。しかし、まだLTの作用自体が完全に解明されておらず、LT制御におけるサイトカインの役割の解明は重要な課題である。
参考文献
1.
在津正文、浜崎雄平:ロイコトリエン・サイトカイン:サイトカインによるロイコトリエン産生系酵素・受容体発現の制御(Leukotriene and cytokine: The up-regulation mechanisms of leukotriene-synthesizing enzymes and leukotriene receptor are regulated by cytokine.)日本小児アレルギー学会誌.2002;16:82-87
2.
Zaitsu M et al. New induction of leukotriene A4 hydrolase by interleukin-4 and interleukin-13 in human polymorphonuclear leukocytes. 2000;Blood 96, 601-609
3.
Zaitsu M et al. Interleukin-18 primes human basophilic KU812 cells for higher leukotriene synthesis. Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids 2006;74(1):61-6
MRP(multidrug resistance protein)ファミリー蛋白の
鼻副鼻腔粘膜における発現と免疫・アレルギーへの関与
九州大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科助手 小池 浩次
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MRP1(multidrug resistance protein 1)はATPの加水分解のエネルギーを利用し基質を輸送するABC(ATP binding cassette)トランスポーターに属し、抗癌剤を細胞内から外へ輸送し抗癌剤耐性に関与する因子として発見された(図1)。
生体においてMRP1は、肥満細胞、好酸球に発現しロイコトリエンC4をはじめとする炎症惹起物質を輸送し炎症反応に関与し、内分泌細胞に発現しホルモン輸送に関与し、また上皮細胞に発現し代謝された異物を輸送し生体を保護する役割があると考えられている。
さらに、MRP1ノックアウトマウスの解析では、肥満細胞からロイコトリエンC4が排出されないため炎症反応が抑制されることが分かった。ロイコトリエンはアレルギー性鼻炎の鼻閉の病態形成に強く関与している。
ロイコトリエンは肥満細胞、好酸球で産生され、その鼻粘膜の容積血管拡張作用や血管透過性亢進作用で、鼻粘膜を腫脹させ鼻閉を形成する。肥満細胞のロイコトリエンC4トランスポーターがMRP1であることが同定され、さらには樹状細胞にMRP1が発現しており、樹状細胞の遊走と分化にMRP1が関与していることが報告され、免疫・アレルギー疾患においてMRP1が重要な役割を担っていることが示唆されている。
また、ロイコトリエン受容体拮抗薬のプランルカストがMRP1の機能を阻害し、モンテルカストの喘息への治療効果がMRP1のSNPに影響されることが報告された。現在、MRPファミリー蛋白は1−9が同定され、MRP2は体質性黄疸のDubin―Johnson症候群のMRP6はPseudoxantoma elasticumの原因遺伝子であることが判明した。
これまで、我々は鼻副鼻腔においてMRPファミリー蛋白が炎症反応や薬物動態に関与している可能性があると推測し、その発現をヒト下鼻甲介粘膜を用いRT−PCR法にて検討し、MRP1−5のうちMRP1、3、4、5が発現していること(図2)、さらには免疫染色にてMRP1が正常下鼻甲介粘膜の繊毛上皮のapical側に発現し、鼻茸において杯細胞化した上皮のapical側、腺細胞、血管内皮細胞、炎症性浸潤細胞の一部で発現していることを解明した。
現在、ヒト下鼻甲介粘膜を用いMRP1以外のMRPファミリー蛋白の局在とMRP6−9の発現の有無、さらにはMRPファミリー蛋白の発現レベルやSNPとアレルギー性鼻炎の病型やアレルギー性鼻炎治療薬の効果に相関がないか検討中で、アレルギー炎症におけるMRPファミリー蛋白の重要性が解明されていくものと思われる。