K・Kニュース vol.10(2006年6月号)


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第26回国際アレルギー会議
(Collegium Internationale Allergologicum:CIA)-Malta に出席して


熊本大学名誉教授 石川 哮
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 2006年5月6〜10日、マルタ共和国マルタ島で、国際アレルギー会議(CIA)が開催された。前にも経験したことがあるが、空港で出迎えてくれる現地の案内人が会議出席者をまとめて車で会場まで送るため、「CIA」と書いたプラカードを掲げて立っていた。
そのプラカードを持っている人は、周りの人が何故アメリカの中央情報局(Central Intelligence Agency : CIA)がマルタに集まるのかと思うかもしれない、武装グループに狙われるかもしれない、という心配がチラッとしたそうである。会期中観光バスに貼られた「CIA」の印にバスガイドも同じことを云っていた。

 国際アレルギー会議CIAには設立1954年以来50年以上の長い歴史がある。2年に1回の会議は今回のマルタで26回目を迎えたことになる。メンバー制で、active memberは約200人と制限しているが、世界の有名なアレルギー学分野の基礎科学者/臨床医学者が名を連ねている。
 私がメンバーとなったのは1984年メキシコのPuerto Vallartaでの第15回であったが、山村雄一先生、石坂公成先生ご夫妻を初めとして日本の有名な方々が参加しておられた。
この記録は一貫してInternational Archives of Allergy & applied Immunology のsupplementとして残されている。

 日本では2000年第23回CIAが箱根において宮本昭正先生会長のもとに行なわれている。Active member として若い人達と入れ替わる為に年令を重ねた人はcorresponding memberに席を移すことになっていて、私も今年マルタで移ることにした。

 イタリア・シシリー島に近く、地中海の真ん中にある島マルタ、ゴゾ、コミノは3島合わせて淡路島の面積ほどの共和国である。マルタ、ゴゾには紀元前5,000年、今から7,000年前という気の遠くなるほどの太古、神話時代の歴史が刻まれている「巨石神殿群」が見られ、その後のさまざまな民族の通過した文明の交差点とも云われる歴史的に重要な島々である。
水は青く透明で、スキューバダイビングを楽しむ人にはたまらないリゾートである。CIA恒例のボートツアーも好天候に恵まれて、気温20℃ぐらいにも拘らず何人かはボートから海に飛び込んで水泳を楽しんでいた。日本人は誰も泳ぐ者はいなかった。

 学術講演は主として午前中で、一室で行われ、plenary session は、“Effector cells”、“Immunotherapy”、“Asthma”、“Gene environment”、“Mast cells”、“Innate and acquired immunity”、の6課題であり、その他、Carl-Prausnitz lecture, Paul Kallos lecture, Peter Dukor symposiumなどのmemorial eventsがあり、Relaxing from Immunologyとしてguest speakerによる“History of medicine in Malta”と題する招待講演が行われた。
140題近いposter演題があり、参加者数は200を越え、日本人も20名プラス同伴者で約30人となった。PresidentはProf. Johanes RingからProf. Gianni Maroneにかわり、次回2008年は、カリブ海にあるキュラソ島(オランダ領)に決まった。


200字コメント

(今回は、7名の方から8件のコメントを頂きました!)

○評価する側にこそ問題あり

 和田義彦氏の絵画盗作問題が世間を騒がせている。和田氏の言い訳とイタリアの画家スギ氏の怒りは正面から食い違っているが、理屈はどうあれ、あれ程数多くの画の構図がコピーそのもののように一致していては盗作と云われても仕方あるまい。
 でも、私が驚いているのは、芸術選奨文部科学大臣賞受賞を決定した選考委員会の浅学、浅薄さである。盗作三昧は世間にざらにある話しだし、和田氏の評価もそのレベルであると思えば特別な事ではないのに、受賞の対象となってしまってはそうは行かない。最重の責任は選考委員のいい加減な評価である。

(石川 哮)


○若き医師の意識傾向を憂う

 第一位「忙しくない」、第二位「自分の時間が持てる」、第三位「高収入」。これを大学の新卒者が就職先の理想条件に挙げたとしたら、どこの企業が受け入れてくれるであろうか。
今年、卒後臨床研修を終えた若き医師に対する進路調査のアンケート結果と聞いて呆れてしまう。優秀な頭脳をもち、使命感に燃えて医学部を目指した若者が、なぜこんな甘えたことを言うようになってしまうのか。これもゆとり教育の弊害のひとつかもしれない。

(黒野 祐一)


○アレルゲンと個人情報保護法

 アレルギーの発症や増悪の因子として患者の住居や生育の環境、食生活や嗜好の傾向などを幅広く調査する必要がある。問診だけで食物負荷やプリックテストの前に原因の全容が明らかになることは多く経験されることである。しかし最近になって医療側の質問や検査にある種の反発を示すものが現れて慌てさせられている。
 それは先日より施行されている個人情報保護法であり、過度の情報制限が合理的診療の妨害因となっていると思われる。

(岡崎 禮冶)

 

○いい加減な評価の源

 絵画盗作問題にクローズアップされたいい加減な物・者に対する価値判断評価が、最近私自身の体験した科学研究費の審査に纏わる厚労省とのやりとりと重なって気が重くなる。
 ここ数年厚労省科学研究費の審査委員として推薦され、応募研究内容審査を実際に行ったが、その分野は「アレルギー」であった。それが今年は、「リウマチ・アレルギー」が審査・評価対象だという。私としてはリウマチ研究を評価する力はないのだが、役所としては両者の審査を要求してきた。評価する力のない選考委員の判断でも書類上選考結果が出ていればお役所はよいのだろうか? 
 正にいい加減な評価であり、これで科研費の採用・不採用を決めるのは申請者への冒涜である。審査を断った。新聞を賑わす世の中の不祥事の多くは、暴走を許すいい加減な評価が源になっている。

(石川 哮)


○日本もグローバルな視点を

 アレルギー関連の学会でジャカルタを訪ねた。シンガポールのチャンギ空港経由で片道約十時間の旅。
 チャンギは二十四時間オープンのアジアのハブ空港で深夜に世界各地に飛び立っていく便の基地となっている。空港のみならず、海上運輸のハブ港も神戸や横浜をはなれて、二十四時間稼動ができ、人件費の安い中国や韓国やシンガポールの港に移りつつある。成田の例で見るように、自らの利益を守ることのみにまい進し、国際競争力を失い、経済的に下降線をたどっている日本は、グローバルな視点で物事を考えないと学問の世界でもアジア諸国に追いつかれ抜かれていくのではないかと危機感を強く感じた。

(浜崎 雄平)

 

○医療不信の解消に時間を

 昨年、神戸市の二十八歳のアトピー性皮膚炎に罹患した女性が、大分県在住の自称治療師の営む断食道場で死亡するという事件があった。アトピービジネスによる被害は、金沢大学皮膚科の竹原和彦教授により調査報告がなされているが、死亡例は大変まれだと思う。しかしハインリッヒの法則から、同様の「治療」を受けている患者さんが他に多くいると推察される。
 皮膚科医としては、アトピー性皮膚炎治療ガイドラインの普及に努めると同時に、根底にある医療不信を出来るだけ解消すべく、患者さんとの対話に時間をかけていきたい。

(藤原 作平)


○医療制度の崩壊に懸念

 先日の国会答弁で、野党議員の「格差社会ができている」と問われて、政府某答弁は「格差はどこでもいつでもある。それよりも、より頑張った者、努力する者が報われる社会を造る」と言った内容であったが、どうも医療の世界ではそうではないようだ。
 高リスクを背負い長時間労働を強いられ世間の批判に耐えて必死に日本の医療を支えている病院勤務医を辞めて苦しさから逃げた方が報われるようだ。医療費増大による国民皆保険制度の崩壊よりも、病院勤務医師離脱による医療制度の全崩壊が早いと私は思っている。

(鈴木 正志)


○梅里雪山

 先日、天神地下街のコーヒー屋に立ち寄った。キリマンジャロやモカなどお馴染みの横文字の銘柄のなかで、たった一つ梅里雪山という漢字の銘柄があった。苦味はなくとてもまろやかな味と香りのコーヒーだった。絶品といっても過言ではない。
 ここ数年、雲南省はコーヒー園が盛んで世界のトップレベルとなり、この雲南省の霊山である梅里雪山の名が銘柄に冠せられたようだ。

(古江 増隆)


アレルギー談話室(KBC:九州朝日放送ラジオ)1400回を迎えて

日本アレルギー協会九州支部長(NHO福岡病院長) 西間三馨

 日本アレルギー協会の九州支部がKBCラジオで一般の人向けに週1回15分のアレルギー談話室を始めて、来る8月6日で1400回となります。

 第1回は今から31年前の昭和54年(1979年)の10月7日に、当時の九州支部長であった長野準先生(国立療養所南福岡病院長)が「アレルギーとは」のテーマで話されています。
その当時の講師をみますと、吾郷晋浩、樋口謙太郎、岸本 進、石川 哮、寺脇 保、吉田彦太郎、江田昭英、中村 晋、古庄巻史、尾上 薫、加地正郎(以上、敬称略)と、綺羅星の如く、なつかしくも、かつまた錚々たるメンバーが並んでいます。
テーマでは、「喘息の治療」、「薬とアレルギー」、「ペットとアレルギー」、「予防接種とアレルギー」など今もよく取り上げられているテーマもありますが、「がんの免疫療法」、「花粉症」、「臓器移植とアレルギー」、「ミルクアレルギー」など30年前の一般人向けの話としては最先端のものも見受けられます。

 これからも、身近なアレルギー、最新のアレルギーの話題を取り上げ、一般の人にも分かりやすい談話として続けていきたいと担当者一同、考えております。
当番組に対する御希望をお寄せ頂きますとともに、御協力、御愛顧のほど、どうぞ今後も宜しくお願い申し上げます。

 

アレルギー談話室・ラジオ番組予定表

◆平成18年(11月12日まで)の放送予定

回数
放送予定日
テ  ー  マ
講  師  名
所      属

1381

3月26日

リウマチと天候

吉澤 滋

国立病院機構 福岡病院内科

1382

4月2日

喘息と学校生活

津田 恵次郎

つだこどもクリニック

1383

4月9日

喘息児の吸入療法

西尾 健

福岡大学医学部小児科

1384

4月16日

アレルギーと気道過敏性

井上 博雅

九州大学大学院医学研究院
医学部呼吸器内科

1385

4月23日

鼻から気管支のアレルギー

石川 哮

熊本大学名誉教授 耳鼻咽喉科

1386

4月30日

思春期喘息

十川 博

九州中央病院心療内科

1387

5月7日

うつと喘息

須藤 信行

九州大学大学院医学研究院
医学部心療内科

1388

5月14日

アレルギーとストレス

吾郷 晋浩

吉備国際大学大学院臨床心理学研究科 

1389

5月21日

金属とアレルギー

佐藤 伸一

佐長崎大学大学院
医歯薬学総合研究科・医学部皮膚科

1390

5月28日

ハウス栽培とアレルギー

浅井 貞宏

佐世保市立総合病院内科

1391

6月4日

腸管免疫とアレルギー

久保 千春

九州大学大学院医学研究院
医学部心療内科

1392

6月11日

小児アレルギーの最近の動向

西間  三馨

国立病院機構 福岡病院小児科

1393

6月18日

日光とアレルギー

戸倉 新樹

産業医科大学皮膚科

1394

6月25日

喘息児サマーキャンプ

小田嶋 博

国立病院機構 福岡病院小児科

1395

7月2日

アレルギーと中耳炎

鈴木 正志

大分大学医学部耳鼻咽喉科

1396

7月9日

食物アレルギー

柴田  瑠美子

国立病院機構 福岡病院小児科

1397

7月16日

幼児のアトピー性皮膚炎

本村 知華子

国立病院機構 福岡病院小児科

1398

7月23日

学校生活とアトピー性皮膚炎

牛島 信雄

牛島皮膚科医院

1399

7月30日

成人のアトピー性皮膚炎

古江 増隆

九州大学大学院医学研究院
医学部皮膚科

1400

8月6日

アレルギー談話室
〜第1400回を迎えて〜

西間  三馨

日本アレルギー協会九州支部長

1401

8月13日

エアコンとアレルギー

鶴谷 秀人

東福岡和仁会病院内科

1402

8月20日

アレルギーと蓄膿症

東野 哲也

宮崎大学医学部耳鼻咽喉科

1403

8月27日

アレルギーの漢方療法

江頭 洋祐

九州看護福祉大学内科

1404

9月3日

喫煙とアレルギー

松元 幸一郎

九州大学大学院医学研究院
医学部呼吸器科

1405

9月10日

秋の花粉症

岸川 禮子

国立病院機構福岡病院アレルギー科

1406

9月17日

予防接種

岡田 賢司

国立病院機構 福岡病院小児科

1407

9月24日

小児喘息の治療

濱崎 雄平

佐賀大学医学部小児科

1408

10月1日

成人喘息の治療

川山 智隆

久留米大学医学部内科

1409

10月8日

高齢者の喘息

相澤 久道

久留米大学医学部第一内科

1410

10月15日

目とアレルギー

内尾 英一

福岡大学医学部眼科

1411

10月22日

睡眠と喘息

津田 徹

霧ヶ丘津田病院内科

1412

10月29日

高齢者のかゆみ

阿南 貞雄

阿南皮膚科医院(長崎)

1413

11月5日

肝臓とアレルギー(T)

遠城寺 宗近

九州大学大学院医学研究院
医学部第三内科

1414

11月12日

肝臓とアレルギー(U)

高橋  和弘

国家公務員共済組合連合会
浜の町病院内科


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