K・Kニュース vol.3(2002年12月号)


〜Page3〜

アルコール誘発喘息

国立療養所南福岡病院 臨床研究部長 下田 照文
------------------------------

 日本人の喘息患者では、飲酒後に喘息発作が出現もしくは悪化するとの訴えが多い。喘息患者に対するアンケート調査によると、飲酒が喘息を悪化させると答えたものは、60%と高率であった。このように、喘息の発作誘発因子として飲酒は重要な位置を占めている(図1)。

 我々のこれまでの研究により 1)2)3)4)、アルコール誘発喘息の発症機序は以下のように考えられている。アルコールはアルコールデハイドロゲナーゼ

(ADH)によりアセトアルデハイドに代謝され、さらに主としてアセトアルデハイドデハイドロゲナーゼ2(ALDH2)により酢酸に代謝される。西洋人ではALDH2活性は正常であるが、日本人の約半数はALDH2活性が低い遺伝子多型をもっている(図2)。このALDH2活性の低い遺伝子を持った喘息患者では、エタノールの代謝物であるアセトアルデハイドの酢酸への分解が進みにくく血中のアセトアルデハイド濃度が上昇する。アセトアルデハイド濃度の上昇は、肥満細胞からのヒスタミン遊離を促進し、このヒスタミンが気道収縮を起こし喘息発作を誘発する。

 ALDH2の低活性型をもつ頻度は人種による差が大きい。日本人43%、中国人41%、朝鮮人28%と北東アジアに高く、タイ人10%、フィリピン人7%と南に下がるとく少なくなる。白人や黒人では0%である。すなわちシベリアで寒地適応したモンゴロイドに発生した遺伝子と考えられる。このALDH2低活性型を持つ人種の喘息患者では、ほぼ同じ頻度でアルコール誘発喘息が存在するものと思われる。このように、ALDH2遺伝子多型のためにアルコール誘発喘息は日本人を含む東洋人に特徴的な現象で西洋人ではまれである。

 ところで、このALDH2低活性型はアルコール誘発喘息を引き起こすという悪い作用のみを引き起こす遺伝子ではなく、アルコールが多量に飲めないことによりアルコール性肝障害やアルコール性精神病を予防するという良い遺伝子の側面を持っている。実際、日本ではフランスに比しアルコール中毒患者は少ないと言われている。

 酒はほどよく飲めば陽気になりストレスを解消し人間関係をスムーズにする。ところが過度に飲むと自身の健康だけでなく時には他人を害する両刃の剣である。酒は飲むものであり飲まれるものではない。


図1 エタノール経口負荷試験後の一秒量の変化
 抗原となる可能性のある物質を含まない純粋エタノールを5%ブドウ糖液で希釈し10%エタノール溶液を作成する。この溶液を喘息患者と健常成人に5分から10分かけて300ml(エタノール30g相当)を経口摂取させる。15分後に一秒量を測定し20%以上低下すれば負荷試験陽性と判定する。喘息患者32例中15例(47%)が陽性であった。健常人では全例陰性であった。


図2.ALDH2の遺伝子解析
 血液(EDTA・2Na 採血)よりフェノール・クロロホルム抽出法およびエタノール沈殿法によりDNAを抽出し、ALDH2遺伝子の変異部位周辺を、正常型プライマー、変異型プライマーを用いてそれぞれPCRを行う。PCR反応液をアガロースゲルにて電気泳動し写真撮影する。検出されたバンドをNN型ホモ接合体(正常活性)、NM型ヘテロ接合体(低活性)、MM型ホモ接合体(活性なし)の3つに判定する。ALDH2遺伝子が不活性型(NM型とMM型)の喘息患者は正常活性型の患者に比べてエタノール経口負荷試験で有意に陽性率が高い。


[参考文献]

1.

Shimoda T, Kohno S, Takao A, et al : Investigation of the mechanism of alcohol-induced bronchial asthma. J Allergy Clin Immunol. 97: 74-84, 1996.

2.

Takao A, Shimoda T, Kohno S, et al : Correlation between alcohol-induced asthma and acetaldehyde dehydrogenase-2 genotype. J Allergy Clin Immunol. 101: 576-580, 1998.

3.

Takao A, Shimoda T, Matsuse H, et al : Inhibitory effects of azelastine hydrochloride in alcohol-induced asthma. Ann Allergy Asthma Immunol. 82: 390-394, 1999.

4.

Matsuse H, Shimoda T, Fukushima C, et al : Screening for acetaldehyde dehydrogenase 2 genotype in alcohol- induced asthma by using the ethanol patch test. J Allergy Clin Immunol. 108 : 715-719, 2001.


九州におけるアレルギー性鼻炎患者QOL調査

熊本大学名誉教授 石 川   哮
--------------------

 我国におけるアレルギー性鼻炎患者人口は2千万人を越えると云われ、正に国民病と認識されている。致命的疾患でないが、罹患すると鼻の症状のみでなく全身的症状も含めて生活の支障が生じ社会的経済的に大きな影響を及ぼしていることが判っている。アレルギー性鼻炎の生活の質(Quality of Life : QOL)への影響を調査するアンケート質問票内容を科学的に確立する研究が行われるようになってきた。

従来行われていた
アレルギー性鼻炎QOL調査研究の経過
 既に欧米では、疾患非特異的質問としてSF-36, SIP, NPH, MHIQなどが、又、特異的質問としてRQLQ(Juniper)が報告されている。しかし、調査対象となる国によってその国の文化、生活様式、道徳などの社会的背景に適した質問票を作製する必要があり、日本アレルギー協会の調査研究として奥田稔先生を中心としてQOL検討委員会が構成され、日本人に適したアレルギー性鼻炎QOL調査票の作製検討を始めた。この委員会では疾患特異的、非特異的内容を含むQOL質問票案を作製し、それを用いた臨床パイロット的施行を行い、その解析結果を参考に新しい案を作るという2年間以上の作業によってようやく完成をみることができた。

研究目的
 日本アレルギー協会九州支部主催によって九州地区で開始した通年性アレルギー性鼻炎を対象とした調査は、委員会の第3次案に準ずる質問票(表)を用いた多施設、多数の対象患者による試行である。九州の耳鼻咽喉科医師の積極的協力で10月現在1,200例を越える症例の調査結果が集まった。この質問票の妥当性、問題点、の再検討と、通年性アレルギー性鼻炎のQOLへの影響を具体的に示す解析作業が開始された。更に、一定の間隔をもって2度目の調査に協力していただいた患者さんは700例を越え、自然経過、薬物治療によるQOLの経過解析などが可能になった。

 この結果の発表会が平成15年2月1日に福岡で行われることになっている。又、この調査票の配付、回収、統計解析などには小野薬品工業株式会社の協力があったことを付記する。


前ページへ

 

 

次ページへ