K・Kニュース vol.4(2003年6月号)
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九州地区におけるアレルギー性鼻炎のQOL調査
熊本大学名誉教 石川 哮
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アレルギー性鼻炎は致命的疾患ではない。しかし、その鼻や眼の症状は、仕事、一般生活、精神生活などの障害を伴い生活の質(Quality of Life:QOL)を著しく低下させる。
アレルギー性鼻炎のQOL障害を定性的、定量的に評価できる質問表の基準化について欧米の研究はあったが、日本ではまだ確立していなかった。奥田稔教授を中心に数名の委員により約2年間検討を進め、質問表のひな形が出来上がった(Japan Rhinoconjunctivitis Quality of Life Questionaire:JRQLQ)。
この検討には主としてスギ花粉症が対象とされたが、(1)通年性アレルギー性鼻炎のQOL調査に使えるか、(2)治療効果など経過観察のための2回調査による対比はできるか、などの検討を、この質問票のひな形 JRQLQを用いて九州・沖縄8県161施設の協力で行うことができた。平成14年6月から10月までの調査期間で1254例、その内通年性アレルギー性鼻炎は759例で、内同一症例で2回調査のできたのは505例に達した。質問項目は19であったが、解析項目は17で(表)、それらを6つのQOL因子(日常生活能、戸外生活能、社会生活能、身体能、精神生活能、睡眠)に分類して評価した。
鼻眼の症状によるQOL障害を訴えた症例は予想以上に多く、「ややひどい」までで平均20%、「軽い障害」まででは40-70%であり、日常生活は70%以上が障害を訴えた(図1)。この関係は鼻眼の症状の重症度とも密な関連がみられ、通年性アレルギー性鼻炎を対象としても、この質問表の臨床妥当性が明らかに認められた。同一症例で2-4週間隔で2回の質問表回答を得た505例を解析すると、1回目調査結果より2回目調査結果の方が QOL 障害は軽くなっていることが判った。
その主な原因は1回目調査時既に薬物を処方されていても処方薬物を変更したか、あるいは新しく追加することによって改善したと判断できた。
単一の薬物を追加あるいは新しく処方した単独薬物の効果もこの質問票で評価できることが示唆された。
抗アレルギー薬(第2世代抗ヒスタミン薬を含む)32例、ロイコトリエン拮抗薬23例、局所ステロイド薬18例の単独追加ではそれぞれ同等の QOL 改善がみられた。
1回目と2回目調査で示された QOL スコアの差で QOL 因子の内容を比較してみると、薬物の特徴がよく反映されていた。抗アレルギー薬は社会生活、身体、精神生活などの改善、ロイコトリエン拮抗薬は睡眠障害の改善、局所ステロイドは日常生活の改善が顕著であった(図2)。以上新しい QOL 質問票( JRQLQ )は、通年性アレルギー性鼻炎患者の QOL をよく反映し、日常診療に有用であることが証明された。
平成15年のスギ花粉症についてもこの調査票を用いた九州地区での臨床研究が進められ、現在結果の解析中である。
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2003年 九州のスギ・ヒノキ科花粉飛散状況と
福岡県内花粉症患者受診状況
(財) 日本アレルギー協会九州支部 児塔 栄子
国立療養所南福岡病院アレルギー科 岸川 禮子
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2003年2月1日〜4月30日まで福岡県医師会を中心とした九州各県医師会(沖縄県を除く)と医療機関、国公立医療機関および日本アレルギー協会九州支部の協力・連携でスギ・ヒノキ科花粉を重力法で測定した。2月15日〜4月15日まで日曜、祝日を除く毎日福岡県内花粉情報、九州各県花粉飛散速報を行った。
花粉症患者状況は県内耳鼻科、眼科医院より受診数・コメント等の情報を提供して頂き、気象条件は日本気象協会福岡本部から予報をいただいて作成した。スギ花粉の飛散開始日は、前年よりも3〜7日遅い2月7〜11日にあり、2月下旬〜3月初めに飛散ピークを迎えた。スギ花粉捕集総数は607〜15300個/cm2と地域差が見られ、福岡、佐賀、長崎、大分では前年の0.9〜1.6倍とやや少なめからやや多く、熊本、宮崎、鹿児島では前年の50〜80%と少なく捕集された。
ヒノキ科花粉の飛散開始日は3月初〜中旬にかけて天候不順と寒い日が続き、前年より4〜9日遅い、3月19〜23日にかけて飛散開始した。ピークは3月下旬から4月初旬にあり、4月下旬まで長く飛散が続いた。捕集総数は14〜5305個/cm2と巾があり、スギ花粉より大きく地域差が見られ、福岡、佐賀で前年の2.1〜4.5倍も多かったのに対し、宮崎、鹿児島では前年の20〜40%と非常に少ない捕集総数であった。福岡県内の2月1日〜4月15日までの花粉症患者受診数は、耳鼻科約9,200名/9件、眼科約990名/4件で耳鼻科前年とほぼ同数、眼科約1.4倍の受診数であった。
スギ花粉飛散ピーク時期に最も受診数が多く、約1800名/週受診し、その頃に耳鼻科医からは、中等症、重症者が急増し、眼科医からは、眼の花粉症症状は例年より強い傾向にあるとのコメントを頂いた。
4月下旬のヒノキ科花粉飛散終了期まで長く患者受診が続いた。(図1)リアルタイムモニター花粉飛散状況報告
2002年2月から試験的に開始した空中花粉自動測定機(リアルタイムモニター)は前年3月下旬頃から黄砂の影響を大きく受けた可能性があったため、(株)大和製作所からの申し出を受け、2003年2月から黄砂レンジを兼ね備えた機器を設置し、重力法による花粉捕集器と花粉飛散状況を比較検討した。
30分毎の花粉数を日別に集計し、Durham型による花粉数と比較した。今年は黄砂現象が少なかったためか、スギ花粉の飛散変動と3月下旬頃のヒノキ科花粉飛散ピークまでは、比較的良く一致し(R=0.8436)、4月に入り他の花粉が多く飛散し始めると不一致が見られてきたが、黄砂との関係も含めて引き続き今後の検討課題である。(図2)
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