K・Kニュース vol.7(2004年12月号)


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アトピー性皮膚炎におけるステロイド軟膏・
タクロリムス軟膏の間歇外用療法


九州大学大学院医学研究院 皮膚科学分野  中原 剛士
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 アトピー性皮膚炎(AD)は、増悪・寛解を繰り返す、掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。アトピー素因とはアトピー疾患の家族暦・既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)を有することまたはIgE抗体を産生し易い素因をいう。
AD治療の概要は図1のとおりであるが、炎症が起こった皮膚に対する治療としては皮疹の重症度に応じた強さのステロイド外用薬を正しく外用することが基本になっている。しかし実際の臨床の場においてはステロイド外用に抵抗性である例が少数ながら存在し、このことがどうしてもステロイド外用量の増加と局所性副作用につながっている。
1999年にタクロリムス軟膏が販売され、ステロイドとは異なる機序で抗炎症作用を発揮するため、臨床の場で広く使用されるようになっている。

 今回我々は、ステロイド軟膏・タクロリムス軟膏の間歇外用療法と、ステロイド軟膏・保湿剤の間歇外用療法の効果を比較して、その有用性についての検討を行った。症例は日本皮膚科学会診断基準でADと診断された17例で、それらの症例の重症度が等しい左右対称部位を評価部位とした。
右側には0.05%酪酸プロピオン酸ベタメタゾンを1日2回4日間塗布しその後の3日間はタクロリムス軟膏を1日2回塗布した。左側には0.05%酪酸プロピオン酸ベタメタゾンを1日2回4日間塗布し、その後の3日間は白色ワセリンを1日2回塗布した。この間歇外用療法を4週間繰り返し、この間抗ヒスタミン剤内服や他の保湿剤は使用しなかった。
評価は日本皮膚科学会の基準に基づき紅斑・急性期の丘疹、湿潤・痂皮・掻破痕、慢性期の丘疹・苔癬化についてそれぞれ0〜3までスコア化して評価した。

 結果は3つの評価項目すべてにおいてどちらの外用法も治療前に比べて治療後のスコアを有意に改善させた(図2)。

次に皮疹のスコアの減少を評価することで2つの外用法を比較すると、紅斑・急性期の丘疹、湿潤・痂皮・掻破痕のスコアにおいてはどちらの外用法も同様の改善を示したが、慢性期の丘疹・苔癬化についてはステロイド・タクロリムス軟膏外用の方がステロイド軟膏・保湿剤よりも有意にスコアを改善させた(図3)。
又、17名中1名だけが最初の週に軽い皮膚刺激感を訴えたが、他の副作用は出現しなかった。さらにどちらの外用を好むかという患者へのインタビューにおいては17名中10名の患者がステロイド・タクロリムス軟膏外用の方が良いとし、7名がどちらの治療も同様であるとの答えであった。

 以前我々が行った外用調査では、タクロリムス軟膏販売後ADコントロール不良群が著明に減少していた。また、ステロイド外用による局所の副作用は可逆性で使用量の減少により回復することが知られているが、タクロリムス軟膏を外用することでステロイド外用量が減少しステロイドによる局所性の副作用がかなり減少・回復していることも明らかになった。

 今回の結果からステロイド外用は間歇外用療法でも十分に効果があり、タクロリムス軟膏との組み合わせによってADに対してより効果がみられること、ステロイド・タクロリムス軟膏間歇外用療法ではステロイドの外用量を減らすことができ、かつステロイド外用薬との組み合わせによりタクロリムス軟膏の皮膚刺激感を減少させることができるため非常に有用な方法であると考えられた。
今後もコントロール不良のAD患者の減少を目指し様々な外用法の検討が必要であると考えられた。


気道リモデリング異説 〜基底膜肥厚"堤防"論〜

(独)国立病院機構 福岡病院副院長 庄司 俊輔
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 「気道リモデリング(airway remodeling)」の用語が広く知られる端緒となった「喘息管理の国際指針(Global Initiative for Asthma:通称GINA)初版(1995年発行)の中では、「喘息の病理」の項に「気道壁リモデリング(airway wall remodeling)」およびその同義語として「結合織リモデリング(remodeling of connective tissue)」が記載されており、その後、"上皮細胞の脱落"、"気管支平滑筋の肥厚"、"血管新生"、"上皮杯細胞の増生"、"間質コラーゲンの上皮下沈着"、"粘膜下線の拡大"などの組織変化もすべて「気道リモデリング」(GINA2002には記載あり)として語られるようになってきている。文献 1)

 さて、間質コラーゲンの上皮下沈着"(いわゆる「基底膜の肥厚」)は、視覚に訴えるインパクトも強く、気道リモデリングの代名詞となった感がある。この間質コラーゲンは基底膜の正常成分であるW型ではなく、主としてV型コラーゲンであり、著者らのこれまでの細胞遊走実験結果(図1)からすると、正常な基底膜の成立過程で重要な役割を果たす気道上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞などの気道構成細胞の遊走も、このような状態では基底膜下へのV型コラーゲンの増加により抑制されてしまうものと考えられる。文献 2)

 さて、図2の(発作時)は気道炎症が続く際の「基底膜肥厚」の成立過程を示しており、好酸球および線維芽細胞(おそらくは筋線維芽細胞)からV型コラーゲンなどが産生され、沈着する過程を模式化したものである。
この図から推察すると、基底膜肥厚は、結果的には、上皮剥離によって外界からの侵入(ウィルス,細菌や環境破壊物質など)に対して無防備になった上皮粘膜に、つくられた障壁あるいは「堤防」の役割を果たしており、種々の外敵から生体を防御している可能性を有するものと考えられる。

 そして、そのあとでこれらの有害物質によってもたらされた気道の炎症が沈静化すると、生体防御さらなる次段階として、気道粘膜は自己修復を開始する。
図2の(非発作時)に示すように、その最初の段階は、蛋白分解酵素(プロテアーゼ)による「堤防」の破壊であり、それと同時進行する形で、正常な基底膜が再構築され、引き続いて生じる気道上皮細胞の遊走・増殖を経て気道上皮が再生していく。
この過程で、喘息での「悪玉」とされている好酸球もマトリックス・メタロプロテアーゼ(MMP)を産生するなどして堤防除去に活躍し、「正義の味方」の役割を果たす可能性が高いと筆者は考えている。

 以上、個人的意見として基底膜肥厚「堤防」論を述べてみた。もちろん、その真偽のほどが判明するにはまだまだ時間も研究も要するであろうが、はっきり言えることは「気道リモデリング」に対しては「気道炎症」とは全く別の視点での治療が必要となることである。これまでの抗炎症療法のみではなく、プロテアーゼ作用、および抗プロテアーゼ作用を有する物質をバランスよく使用することが必要不可欠になる。何よりも生体の自然治癒力を上手に生かす治療を最大限模索することになろう。
生体防御機能を障害することなく、真の「気道リモデリング」治療薬が開発されることを期待したい。

 文 献

1.

Global Initiative for Asthma. Global strategy for asthma management and prevention. NHLBI/WHO workshop report. National Institute of Health. Publication No. 95-3569, 1995.(revised 2002)

2.

庄司俊輔:気管支喘息の基本病態 -気道収縮から気道炎症、そして気道リモデリングへ- 医学のあゆみ 210(10): 804-808, 2004.


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