K・Kニュース vol.8(2005年6月号)


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アレルギー性結膜疾患患者の涙液中の
細胞外マトリックス分解酵素


山口大学医学部分子感知医科学講座(眼科学) 助教授 熊谷 直樹
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 T型アレルギー反応によって誘発される結膜の炎症性疾患はアレルギー性結膜疾患と総称される。

 このうち、スギ花粉症に代表されるアレルギー性結膜炎では角膜障害は伴わない。一方で、主に男児にみられる春季カタルでは強い結膜炎に伴って点状表層角膜炎、遷延性角膜上皮欠損、角膜潰瘍、角膜プラークなどの角膜病変がみられる。春季カタルにみられるこれらの角膜病変は患者のQOLを低下させ、時に永続的な視力障害を残す、春季カタル患者の視力予後の決定因子の一つである。

 角膜上皮細胞の機能は角膜上皮基底膜によって制御されている。角膜上皮基底膜は主に細胞外マトリックスであるW型コラーゲンとラミニンによって構成されているが、これらのタンパク質が傷害されることにより角膜上皮の機能障害や上皮剥離が生じやすくなる。W型コラーゲンやラミニンはmatrix metalloproteinase(MMP)-2およびMMP-9

(gelatinase-A、-Bとも呼ばれる)により分解される。MMPは一般に不活性型のpro-MMPとして細胞外に分泌される。その後、タンパク分解酵素や他のMMPによる修飾を受け活性型のMMPへと変換される。我々はアレルギー性結膜疾患、特に春季カタルの角膜病変の病態を解明する目的で涙液中の活性型MMP-2、MMP-9の存在を検討した。

 正常者、アレルギー性結膜炎患者、春季カタル患者の涙液を採取し、ゼラチンザイモグラフィーでMMP-2、MMP-9を検出した。

 正常者、アレルギー性結膜炎、春季カタルともに涙液中に非活性型のMMP-2およびMMP-9が検出された。正常者の涙液中には活性型のMMP-2、MMP-9は検出されなかった。アレルギー性結膜炎患者では一部の症例の涙液中に活性型のMMP-2、-9が検出された。春季カタル患者ではほとんどの症例の涙液で活性型のMMP-2、-9が検出された。これらの結果は角膜病変や結膜の増殖性変化を伴う春季カタルにはこれらの2つのMMPの活性化が関与していることを示唆している。興味深いことに喘息患者の肺胞洗浄液中には活性型のMMP-9がみられるが活性型のMMP-2はみられないことが報告されている。すなわち、MMP-2の活性化は春季カタルに特徴的であると考えられる。涙液中や肺胞洗浄液中のMMP-9は組織に浸潤した好酸球が主な起源であると考えられている。MMP-2の起源については必ずしも明らかではないが、角膜上皮細胞や角膜実質細胞が有力な候補である。

文 献

1.Kumagai N, Yamamoto K, Fukuda K, Nakamura Y, Fujitsu Y, Nuno Y, Nishida T: Active matrix metalloproteinases in the tear fluids of individuals with vernal keratoconjunctivitis. J Allergy Clin Immunol 110: 489-91, 2002.

2.Mautino G, Oliver N, Chanez P, Bousquet J, Capony F: Increased increase of matrix metalloproteinase-9 in bronchoalveolar lavage fluids and by alveolar macrophages of asthmatics. Am J Respir Cell Mol Biol 17: 583-91, 1997.

図の説明文

アレルギー性結膜疾患患者の涙液中MMP-2、MMP-9
無麻酔、無刺激で正常者、季節性アレルギー性結膜炎患者、春季カタル患者の涙液を採取し、ゼラチンザイモグラフィーでMMP-2、MMP-9を検出した。

不活性型のMMP-2、MMP-9は全ての症例で検出された。活性型のMMP-2、MMP-9は角膜病変を伴う春季カタルでのみ検出された。


スポーツとアレルギー疾患

(独)国立病院機構福岡病院 統括診療部長  小 田 嶋 博
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 小児では(おそらくは成人でも)、運動は疾患と関連する場合が多い。特に小児は運動欲求が強いために、日常生活での制限がその疾患の症状のみならず、発育過程にある彼らの性格傾向にまで影響を与える。

 我々は福岡大学スポーツ科学部生理学進藤教室と共同研究を約20年間続けてきた。喘息では患者の体力に応じて負荷試験を行うと運動誘発喘息

(EIA)がみられるが、これは適切な予防処置を講じて運動を行うことによって、軽快する。

 さらに、喘息の病態の基本である気道の過敏性や、炎症の目安である呼気中NO値まで低下する。しかし、運動を中止すると、一旦改善したEIAは元に戻る。また、現在、適切な運動負荷量はどのくらいのものなのかを検討している。その結果、現在一般的に行われている学校体育の強度以下、所謂「にこにこペース」の運動であっても、EIAの改善が得られることも分かってきた。また、実際の現場、例えば学校体育では、喘息患者を休ませるのではなく、始めにウオーミングアップ的な運動を行い、それに続いて、インターバルとして、計時係や記録係をさせることで他の同級生に気を遣わずに過ごせ、その後、強度の高い運動をすることでEIAを予防できる。また、運動やキャンプなどの開放的体験は自他否定的な自我の傾向から自他肯定型のエゴグラムパターンへと変化させることも分かってきた。

 また、アトピー性皮膚炎もその症状の部位が発汗部に一致していることでも明らかなように、運動後の汗が悪化因子になっていることも知られている。それに対しては、学校で運動後にシャワーを浴びるという対処方法によって、アトピー性皮膚炎が改善することが認められている。このような、実際の日常現場でのスポーツの影響も確認されてきている。


新たなエピペンの認可について


(独)国立病院機構福岡病院 病院長
(財)日本アレルギー協会 九州支部長

西間 三馨

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 2003年8月に蜂毒に対する成人用のエピネフリン自己注射薬(1回注射量0.3mg、商品名エピペン)が承認された。本剤は欧米においては1980年代からプレホスピタルケアの薬剤として発売されて使われている。本邦における2003年認可の際の効能・効果が「蜂毒に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療薬(アナフィラキシーの既往のある人、またはアナフィラキシーを発現する危険性の高い人に限る)」と限定されていたため、食物や薬物によるアナフィラキシーショックには使えず、小児用の0.15mg(エピペン)の承認も見送られていた。

 そこで私達は関係団体、支援団体と協力して早期追加承認を厚労省に働きかけ、その結果、本年3月4日には成人用0.3mg、小児用0.15mgがともに食物および薬物アレルギーによるアナフィラキシー反応への追加適応が承認された。

 御存知のようにアナフィラキシーショックは医療のない場所や時間帯に、予期しない形で突然に起こることが多く、即時の対応が必要である。そして治療としてはエピネフリンの注射が即効性があり第1選択とされている。最近は食物アレルギー患者、アナフィラキシーショック患者の増加が指摘されており死亡例も報告されていることから、本薬剤の導入がとくに患者側から強く要望されていた。この薬剤は緊急処置として患者自身がその場で使用できる「自己注射」という剤型であり、この承認は画期的なものと考えられる。

 しかし新たな形の治療薬剤、投与法なので多くの解決しなければならない、かつ予想される問題がある。私はこの件で尽力してくれたある新聞に次のように述べている。

 "……これから医療側は十分な説明の上で処方を行い、患者も自らの責任で治療を理解する、そして実際にはどこで使われるか分からないので、周囲にいる人がサポートできるような教育が必要になります。互助的な社会という意味で、それができる社会こそが良い社会だと期待が膨らみます。差し迫った課題として保育園、学校などでどう対応してくれるかが問題になりますが、例えば本人が既に意識を失っているような場合、本来なら自分で打つべき注射を第三者が打った時に起きたことは、個人ではなく社会が責任を負う、社会に成り代わって操作したという理解に基づく法整備も必要になります。もう一つ、早く救急救命士が打てるようにしていただきたい。注射し酸素吸入しながら搬送することが大切だからです。……"

 日本アレルギー協会としても、日本アレルギー学会、日本小児アレルギー学会等と協力して、その環境整備に尽力したいと考えている。 


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