K・Kニュース vol.9(2006年1月号)


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第18回 世界心身医学会議並びにご進講についての体験報告


九州大学大学院医学研究院心身医学教授  久 保 千 春
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  第18回世界心身医学会議が、本年(2005年)8月21日から26日神戸ポートビアホテルと国際会議場で開催されました。この会議は日本学術会議との共催となりました。1977年の第4回大会が京都で池見酉次郎先生が学会長として開催されて以来28年ぶりに日本で開催されました。

 東京大学の久保木富房教授と私の二人が運営委員長になりました。メインテーマは「体と心科学する−日本から世界へ向けて−」でした。8月21日の開会式には天皇皇后両陛下にご臨席いただきました。

 天皇皇后両陛下が学会にご臨席されるのは、多くの学会がありますが、一年に一回であり、この学会が選ばれたことは大変名誉なことであります。高久史磨日本医学会会長、黒川 清日本学術会議会長、文部科学省事務次官、兵庫県知事、神戸市長など多くの方に開会式とレセプションにご参加いただきました。開会式では天皇陛下にお言葉をいただき、レセプションでも天皇皇后両陛下は約40分間ご歓談されました。外国や国内の出席者にとって、天皇皇后陛下に直接お会いしたり、お話できることは大変貴重な体験であり、多くの方に喜んでいただきました。

 学会は、30カ国より1,100人余の出席者でありました。招待講演、特別講演があり、また、心身相関のメカニズム、ストレスと神経免疫内分泌、摂食障害の基礎的臨床と研究、相補代替医療、サイコオンコロジー、心身医学教育などの25のシンポジウムなどがありました。この会議を通じて日本の心身医学の現状を世界に示すことができました。また多くの方と親睦を深めることができ、6日間の会議を成功裡に終えることができました。

 また、8月10日には皇居で天皇・皇后両陛下に心身医学についてご進講をさせて頂きました。皇居の森の奥にある部屋でさせて頂きました。深い森で坂下門から車で7〜8分ぐらい行ったようなきがします。
宮内庁長官、次長、侍従長、女官長も同席されました。こちらは久保木教授、黒川学術会議会長の3名でした。
 3メートルぐらいの距離でテーブルを挟んでパソコンで映しながら両陛下に約50分間ご進講をさせて頂きました。最初に天皇陛下から“お茶でもどうぞ”と言われましたが、緊張しており、口にすることが出来ませんでした。
 私が最初の30分間ご進講を致しました。天皇陛下からは“行動療法は学習理論からきたものですか”、皇后陛下からは“最近のストレス学説はどうなっておられますか”など専門的な質問もあり、緊張しました。

二つとも大変貴重な経験でした。


補完・代替医療に科学のメスを入れよう


熊本大学名誉教授  石 川  哮
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 アレルギー疾患の病態は慢性炎症である。喘息のケアが進歩したおかげで、死に至る喘息患者特に小児喘息死は急激に減少した。致命的疾患という認識が薄れれば、人は病院にわざわざ出かけて治療を受けるより手近なところで仕入れたやり方で症状をコントロールできないかと思うのも仕方がない。

 患者数の多いスギ花粉症ではその傾向が益々強くなり、所謂民間療法、補完・代替医療に流れてゆく傾向にある。西洋医学的evidenceの裏づけがなくても、食品、飲料、など日常生活に乗せてすんなり受け入れられるものに走る。日本ではどれくらいのアレルギー患者が、通常の診療では用いていないどのようなものを仕入れて常用しているかを調査したデータはないと云えよう。

 平成8年厚生省班研究で「花粉症・アレルギー性鼻炎の民間療法」に関する現況を調べた事がある。広い範囲での疫学調査は出来なかったが、健康食品、水、食物、入浴剤、器具、漢方薬、鍼灸、超音波理学療法など数多くの方法が行われていた。殆どは現在の認識からすれば科学的根拠(evidence-based)の薄いものであった。これらを患者が受け入れるのは、医師の無関心さにも責任があると云える。医療は科学なのか? という基本的問題を再考する必要がありそうだ。

 2005年11月多田富雄氏の会長で第8回日本補完・代替医療学会が開催された。免疫学者 多田富雄氏が何故補完・代替医療(Complementary and Alternative Medicine:CAM)学会会長なのか? 私にとっては疑問であった。しかも、癌免疫療法の講演での司会者に私が指名されたが、科学的証明を基本とする臨床癌免疫学・治療学に打ち込んできた私にすれば、何故癌免疫療法がCAMなのか? 当初は理解できなかった。

 しかし、多田会長の補完代替医療の理念を知って納得できた。その内容を要約すると、「病気を個体全体の問題と認識し、個体は細胞、組織、臓器の単なる集まりではなく、それら相互の関係・関連・対話で成り立っている。病気は個体全体の病苦であって臓器それぞれの病気と臓器相互間の関連の異常に起因する。 このシステムの解明は西洋医学の方法だけでは理解できず、伝統医学、代替医療によってこそ全体性に迫ることができる。そこに潜む迷信、信仰、思い込みなどを排除しつつ科学的解決を求めるのがこの学会の理念」であって、新しくepi-medical sciencesと呼ぶことを提案している。「アレルギーと代替医療」と題するシンポジウムも行われ、各々の報告には科学的根拠の提示が求められていた。

 糖尿病、高血圧症などの生活習慣病や癌のような致命的疾患では西洋医学的治療だけでなく、補完・代替医療に頼る人の数は、患者総数の90%以上に及ぶのではなかろうか? 第一線の医師は知らん顔をしている訳にはゆかなくなっている。


 

アレルギー談話室・ラジオ番組予定表

◆平成17年12月〜平成18年(3月19日まで)の放送予定

回数
放送予定日
テ  ー  マ
講  師  名
所      属

1365

12月 4日

冬の風邪とアレルギー(成人)

木下 正治

長田病院(柳川)

1366

12月11日

寒冷蕁麻疹

古江 増隆

九州大学大学院医学研究院・医学部皮膚科

1367

12月18日

暖房とアレルギー

井上 とら夫

東福岡和仁会病院内科

1368

12月25日

風邪の漢方治療

江頭 洋祐

九州看護福祉大学(内科)

回数
放送予定日
テ  ー  マ
講  師  名
所      属

1369

1月1日

新春放談

石川 哮
西間 三馨

熊本大学名誉教授
国立病院機構 福岡病院

1370

1月8日

冬のアトピー性皮膚炎

佐藤 伸一

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
医学部皮膚科

1371

1月15日

高齢者のかゆみ

阿南 貞雄

阿南皮膚科医院(長崎)

1372

1月22日

今年の花粉飛散予想

岸川 禮子

国立病院機構福岡病院アレルギー科

1373

1月29日

スギ花粉症

宗 信夫

宗耳鼻咽喉科医院(福岡)

1374

2月5日

アレルギー週間

庄司 俊輔

国立病院機構 福岡病院アレルギー科

1375

2月12日

眼とアレルギー

内尾 英一

福岡大学医学部眼科

1376

2月19日

喘息の治療(小児)

小田嶋 博

国立病院機構 福岡病院小児科

1377

2月26日

喘息の治療(成人)

松元 幸一郎

九州大学大学院医学研究院
医学部呼吸器科

1378

3月5日

乳幼児のワクチン(予防接種)

植田 浩司

西南女学院大学保健福祉学部

1379

3月12日

肝臓とアレルギー(T)

向坂 彰太郎

福岡大学医学部第三内科

1380

3月19日

肝臓とアレルギー(U)

釈迦堂 敏

福岡大学医学部第三内科


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